鎌田信号機 Web Magazine
わが胸の夕日は沈まず

  第四話 3/3
第二章 外地編
幾度も繰り返すが、軍隊というところは命令には絶対服従である。嫌な仕事は使役という形で初年兵にやらせることが平然と行われたものだ。今日感謝の念をもって軍隊生活を回顧するなれば、何事においても

『忍耐』

この二字の言葉を身をもって毎日実行したことが最大限の教訓になっているのではなかろうか。

部隊の日課の楽しみは、市内にあるショロンプールへゆくことであった。約2キロメートル、かけっこでないと軍靴が焼けつき足の裏に痛みを感じてくる。

そしてプールで約5分間

“烏の行水”

ができるのがうれしかった。サイゴン兵站基地に駐屯する多くの将兵の、せめての憩いのひとときであった。

週のうち月、水、金は夕刻より軍歌演習を行う。火、木、土は手旗信号によるやさしい情報交換もやる。夜になると暗闇の中、懐中電灯で光の信号(モールス)をやる。それらは面白くて興味のある日課だった。

軍歌演習で大好きだったのは、

「軍艦マーチ」(守るも攻むるも黒鉄の・・・・・)

「歩兵の本領」(万朶の桜か襟の色・・・・・)

「水師宮の会見」(旅順開城 約成りて・・・・・)

「戦友」(ここは御国を何百里・・・・・)

などで、これらの歌は今でも何となく口づさんでいることがある。

平和の都(仏印サイゴン!数々の思い出の詩)

作詞 鎌田大吉

(一)

パリの匂いのサイゴンで

やさしく、ほほえむ安南娘

人と人とのぬくもりが

たしかに伝わる握手から

大事なこと 知りました

(二)

今日の別れは永遠のもの

明日は 戦場 ルソン島

楽しく過ごしたひとときを

平和の味を しみじみと

仰いだ星に 話します

(三)

胸のポケット押さえると

故郷に残した妻や子の

写真が私に 声かける

父さん元気で 頑張って

父さん元気で 帰ってね

第四話終わり

この物語は鎌田信号機株式会社 創業者 故 鎌田大吉が平成7年に自費出版した戦争体験記「わが胸の夕日は沈まず」に基づいて掲載させていただきました。執筆については、当時の記憶や戦場での個人的体験を基に行いましたが、誤報の可能性や失礼な表現がある場合がございます。戦争中という特殊な状況下であった事につきご寛容いただきますようお願い申し上げます
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