鎌田信号機 Web Magazine
わが胸の夕日は沈まず

  第四話 2/3
第二章 外地編
初年兵はつーらいよ!

生活物資はまことに豊富だ。特にサイゴンでは米が二毛作で、細長い米がたくさんとれる。原隊では大豆飯を食べてよく腹をこわしたものだが、そのことを思えば何とありがたい事かと思う。

主食は米を豚肉、鶏肉である。街を歩くと店舗内には子豚と鳥の丸焼きが沢山目につく。われわれの毎日の食事では豚肉と汁、メコン河の魚等が膳に出、サイゴン米の飯が食べ切れない程たくさん給されるのだった。戦時下の日本の統制経済とは月とスッポンの相違である。

自分たち初年兵には毎日

「給水」

が義務づけられていた。サイゴンでは水ほど貴重なものはない。何万人という日本軍の駐屯兵站地であるため、午前3時ごろ起こされてバケツ2つに水を汲むという使役をせねばならない。

長蛇の列で順番を待ちながら

「早く日本から初年兵が来てほしいなー」

思うのはその事ばかりなり・・・・・。今から思えば気の遠くなる水汲みの話である。

その他の日課としては

「ハエ退治」

がある。ハエ叩きの使役で、食事前にかり出され、豚肉に群がる大きな銀蝿を数百匹退治する。来る日も来る日も撃滅作戦と頑張ってみるが、なかなか後を絶ってくれない。

その凄まじたるや日本では想像もつかないもので、なんと水汲み使役の方がずっと気分的に楽である。その時の後遺症ともいうべきか、自分は現在豚肉が大嫌いで一切口にしないし、また「共食い」もイヤダ!

この物語は鎌田信号機株式会社 創業者 故 鎌田大吉が平成7年に自費出版した戦争体験記「わが胸の夕日は沈まず」に基づいて掲載させていただきました。執筆については、当時の記憶や戦場での個人的体験を基に行いましたが、誤報の可能性や失礼な表現がある場合がございます。戦争中という特殊な状況下であった事につきご寛容いただきますようお願い申し上げます
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