鎌田信号機 Web Magazine
わが胸の夕日は沈まず

 第一話 2/3
第一章 内地編
朝、起床ラッパが隊内に高く響き渡る。初年兵たちはただ右往左往して手間取りながらなんとか軍服を身に着け、われさきにと点呼場に整列。班長殿の号令で、

「1」、「2」、「3」

の大きな声で番号を唱える。この場に1秒たりとも遅刻することは許されない。急ぐあまり、あわて者の私は帽子をかぶるのを忘れ、大目玉をくらってしまった。

だが、これも今ではとても懐かしい。この軍隊の日課に見習い、当社では十数年前から毎日朝礼で全員の点呼を取っている。もちろん社長といえども同列で、1番に

「鎌田社長!」

と呼ばれる。

「はいっ!」

と、私の声は一番大きいのである。全員呼び終えるとラジオ体操をみんなで行う。そして大柱に奉ってある神棚に全員揃って拍手を打って一礼する。毎日のリーダー役は交代性である。何か一言、喋ることになっている。

話は軍隊にもどる。 

最初の点呼終了後、内務班室に帰って来ると、班長殿より初年兵集合命令が出た。何が起こるのか知るよしもないが、なんとなく不吉な予感がした。鬼班長殿は、「これから貴様たちに軍隊精神を叩き込むから歯を食いしばれ!」と言う。

各初年兵は1歩前に出、直立不動の姿勢をとらせれる。班長殿の大きな平手が強烈に横顔面を殴打する。

数人は即座に倒れた。私は倒れる1歩手前だった。よく「目から火が出る」というが、そのものずばりであった。

なんと軍隊というところは別世界かと痛感する。私も少年時代大阪で丁稚奉公し、少々は殴られた経験もあるが、軍隊では特別サービスといったところである。

軍人勅論の中に、上官の命令には「その事の如何を問わず直ちに服従せよ」とある。軍隊は上下の差による心理効果をうまく考えていて、襟の星数によって優越感が生ずるようになっている。

1日でも入隊が早ければ後輩に対して古兵たる価値がある。これがすべての命令系統の基本であり、すべての軍隊生活の秩序の根源を成すのである。

「光陰矢の如し」は大げさだが、早くも入隊50日目となり、ついに私に班長当番が回ってきた。前任者たちよりいろいろと「当番の有り方」について伝授してもらってはいたが、さて私がやるとなると何かと心配で戦々恐々の気分だった。

この物語は鎌田信号機株式会社 創業者 故 鎌田大吉が平成7年に自費出版した戦争体験記「わが胸の夕日は沈まず」に基づいて掲載させていただきました。執筆については、当時の記憶や戦場での個人的体験を基に行いましたが、誤報の可能性や失礼な表現がある場合がございます。戦争中という特殊な状況下であった事につきご寛容いただきますようお願い申し上げます
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