鎌田信号機 Web Magazine
わが胸の夕日は沈まず

  第十三話 2/2
第三章 決死編

通信隊全員による、戦没者慰霊祭

隊長は、戦没者慰霊祭を施行するため、通信隊全員を集合させた。

九二式小銃を以て、

「捧げ銃(つつ)」

を行い、その後各兵による「礼砲三発」を発射した。

尊い戦友の霊に捧げる隊長の訓示は以下の通りだった。

『亡き戦友の御霊よ、君たちをこの山中に残し、痛恨の心地でわれらは今故国へ帰ろうとしている。残痕に堪えないがなすすべもない。許して欲しい。せめてもの慰めに今から弔霊射撃を行なうから、これを受けてほしい。安らかに眠れ。君たちの死を無駄にしないよう、俺たちも頑張るつもりだ』

そして、

「撃て!撃て!撃て!」

静かな朝の空気を破ってルソンの山中に銃声は嶺から峯へ、谷から谷へと縫って、いつまでもいつまでも永く遠くへと響きつづけた。

「着けー、剣!」

銃の先に一斉に剣がきらめく。

「捧げー、銃(つつ)!」

君が代のラッパの音が厳かに流れる中、銃が捧げられた。このときわれわれは新しい日本への復興を願ったのであった。

残置せる兵器・弾薬、無線器、暗号、書類等を全部破棄・焼却、あるいは木の根っこに埋め、われわれは何一つ残すことなく、手ぶらてんさくといった状態になった。中には将校の魂ともいうべき軍刀を肌身はなさず持っていた将官もいたが、もちろん後の武装解除の時に裸一貫となった。

こうして下山の行事を無事に終え、そぞろに部隊は山を下りにかかった。

第十三話終わり

この物語は鎌田信号機株式会社 創業者 故 鎌田大吉が平成7年に自費出版した戦争体験記「わが胸の夕日は沈まず」に基づいて掲載させていただきました。執筆については、当時の記憶や戦場での個人的体験を基に行いましたが、誤報の可能性や失礼な表現がある場合がございます。戦争中という特殊な状況下であった事につきご寛容いただきますようお願い申し上げます
鎌田信号機株式会社
Copyright (C) 2006 Kamada Signal Appliances Co.,Ltd. All Rights Reserved.