鎌田信号機 Web Magazine
わが胸の夕日は沈まず

  第十五話 2/3
第三章 決死編

復員船内部の出来事

船倉内では各部隊員は互いにうちとけていろんな話をした。

「早く日本の土を踏みたい!」

「両親に、妻子に、兄弟に逢って、積もる話の数々を早くしてみたい!」

そしていつものテーマ

「帰ったら何が一番食べたいか」

の話となる。

「にぎり寿司が食べたい」

「白い飯を、味噌汁で腹一杯食べたい」

「テキが食べたい」

「鯛の造りが食べたい」

「ビールと日本酒とチャンポンで夜通し呑みたい」

と、思い思いに言い合う。自分はやっぱり、

「ぜんざい、おはぎが第一番に食べたい」

と話すのであった。

日本へ帰れることは大きな喜びだったが、反面、不安もあった。妻子は城東区白山町の、叔母の家の近くに住んでいた。森の宮駅から歩いて十分間ほどだが、一キロほどのところに数万人の産業戦士が働いていた大阪砲兵工廠があり、これがおそらく猛爆されているだろうから、妻子や叔母がどうなっているかわからない。家はどうなっているのか、みんな無事に生きているのか、その事を考えるととてもとても心配でなりませんでした。もしどこかの田舎にでも疎開していてくれれば命は助かっているだろうが、まったく何の情報もなく、帰ってみなければ状況はなにひとつわからないのである。

「妻や4歳になる長女はどうしているだろうか。叔父叔母はどうなっただろうか」
と、とてもとても心配でならなかった。

この物語は鎌田信号機株式会社 創業者 故 鎌田大吉が平成7年に自費出版した戦争体験記「わが胸の夕日は沈まず」に基づいて掲載させていただきました。執筆については、当時の記憶や戦場での個人的体験を基に行いましたが、誤報の可能性や失礼な表現がある場合がございます。戦争中という特殊な状況下であった事につきご寛容いただきますようお願い申し上げます
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